王妃の頭を、盛り盛りにした髪結いさんの伝記。


  マリー・アントワネットの髪結い 
 ウィル・バショア 原書房
kamiyui

漫画:傾国の仕立て屋で見かけるうちに
なんとなく興味をひかれ、読み読み

1838年に出版された『レオナールの思い出』を底本とし
他の史料で裏付けを取りながらまとめられており
それでも書かれている事が全部史実に忠実かといえば
微妙…な部分もあるけど面白かったデス。読み物として。

この髪結いさんについては、元々1794年にギロチンで処刑説と
1820年に自然死説があったそう。
こちらの本ではその点を、髪結い“レオナール”を称する人物が
三人いた説を展開して解明。
レオナールから髪結いの仕事を受け継ぎ、その名を利用した弟たちが
レオナール2号・3号だったということで。商号ぽいかな?


レオナールの回想録は、本人も認めているとおり、ガスコーニュ人の
作である。どの場面でも、自分の役割は大げさに描いてある。

うんうん。その気配はありましたです
特にベルサイユ宮殿襲撃→王家の人々をパリへ移送。
この場面での姿は、ちょいと出来すぎ君でしたネ

髪型を作っていく場面の描写が多くなかったのは
元よりモード本ではないので仕方ないけど、やや残念。

ヴァレンヌ逃亡開始の直前に、髪結いのレオナールが
ブイエ将軍に密書を運ぶ場面は、冒険小説のようでしたが
一方、弟のレオナールも同時にこの逃亡劇に一枚噛んでいて
知らず逃亡失敗の遠因となっていたとか…なんてこったい


以下、私的 お? と思った点みっつ。

幼い王太子妃は中州にある建物の「オーストリア側」の
玄関から入ったが(歴史家たちが記述したように)祖国からのものは
何ひとつ持っていかないよう一糸まとわぬ姿になる必要はなかった。
この古い慣習はとうの昔になくなっていたのである。

ほぉ~~儀礼ガチガチのところにも変化はありましたか。
何一つ持ち込めない、というわりには後日
オーストリアの品が登場するのが不思議でした。
この時、持ち込めなかったものは、別便でベルサイユに
届いたのかな?と想像してましたわ~。

「パンなんて、彼らにはぜいたく過ぎますよ」
この工場主はただちにその界隈から追い出された。

日給を下げ非人道的発言をし、追い出されたとされる工場主。
この発言自体が曲解(捏造?)されたもので、逆上した人々から
逃げ回るはめになったという別の真相を、ほかの本で
読んだ事がありました。
本書では、うわさをそのまま採用した形なんですね。
大筋に影響しない部分だから平気なのかもしれませんが。


デュ・バリー夫人が王家を助けるためには、フランスを
出るしかなかった。
夫人はルーヴシエンヌやその他の町の役人に、自分はロンドンに
盗まれたダイヤモンドを探しに行くのだと信じ込ませた
(あくまでも旅の口実にすぎないのだが)

初耳~~この解釈は読んだ事なかった!
亡命者の援助もしていましたが、フランスの館(にある財産)
そのままにしておく事が出来なかった様子。

危険についてはすでにいろいろと耳にしていたにもかかわらず、
絶対にフランスに帰るつもりだと言い、レオナールを愕然とさせた。
~略~
「私は42歳で、もう色恋沙汰はスープや牛肉と同じ。
何のときめきも感じなくなりました。でもひとつだけ、燃えてしまった
ミルテの灰からなお立ちのぼってくる情熱があるの。
それは私の胸を焦がすものではないけれど、私の頭はそのことで
いっぱいなの。私は、自分の財産に夢中なのよ」


こちらの御本、ベルばらファンとしましては、英国での
デュ・バリー夫人の動向や、ヴァレンヌ逃亡部分が興味深かったデス
(逃亡失敗は、それでもやっぱり可哀そうなんですけど)