2020年02月

  マリー・アントワネットの暗号 
 解読されたフェルセン伯爵との往復書簡
 エヴリン・ファー著 河出書房新社


やっと読み終えることが出来たこちらの本。
史実の王妃&フェルセン、暗号通信に興味のある人向の内容で
これは後々まで残っていく研究書ですね。
習俗には興味があるけど、史実の王妃に対する興味はそう強くない
自分にとっては、果てしなく濃く重い本でございました ふひ~

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記録魔フェルセン伯は書簡発行の記録簿もつけていて
それとの付け合わせで現存する物、失われた物とを判別。
本書タイトルは『アントワネットの…』となっていますが
中を見るとフェルセンが主軸。
王妃とフェルセンの往復書簡をメインに、妹ソフィー等への手紙や
フェルセンの日記などで、書簡がない部分を補完してありました。

往復書簡は1780年(24-5歳。独立戦争へ発つ年)から始まり
フェルセンは書簡原本と、個人的な部分を削除した写しとを
保管していたと考えられているそう。

晩年(といっても50代でしたが)これらの書簡を元に、革命当時の
記録史を執筆しようとしていたらしいですが、民衆に虐殺された事で
実現せず、その後、大切に保管されていた書簡も四散。

フェルセン著の革命記…あったら読んでみたかった…と思うも
逆に、他人に読ませることを前提としていない、この書簡そのものこそが
なんの作意も入らないまま、当時の様子をストレートに伝えてくれる
貴重な記録になってるわけですもんね~。

だから重い!…重かったです
見つかっている全ての書簡が収録されており、時期としては
ヴァレンヌ逃亡から、タンプル塔に幽閉された頃迄の書簡が多い印象。
王家を救うべく奔走し、ギリギリの緊迫感が伝わってくるものの
今へ至る結末がわかっているので、その報われなさ加減に
段々切なくなってくるのでございますよぅぅぅ


読んで個人的に意外だった点。
革命が起こる遥か以前から、暗号書簡を交換していたこと。
ポリニャック夫人とは、夫人亡命後も手紙のやり取りがあったこと。
王妃が政治的な相談事をしていたこと。
政治絡みの件については今迄読んだ本にも、書かれていましたが
御本人様の書簡をぐいぐい読まされると、この説得力の違いは大きい。

あらまぁ だった点は、フェルセン伯
ヴェルサイユ宮殿に隠し部屋を持っていたこと。
実写版ベルばらのラスト=宮殿の窓辺でらぶらぶを思い出しましたヨー。
あそこまで堂々とはしないでしょうけれど(苦笑)


スイス兵は、フェルセンが王妃のもとへ通っている事を知っていた。
通常、スイス兵への心付けは「ヴェルサイユでの雑費」項目に計上され
個別に記録されることはなかったが、今回は特別のようだ。
これは口封じなのだろうか。こうした心付け24リーヴルは、
王妃の使用人に対する額としては妥当としても、一般には桁外れだった。
フェルゼンの従僕のなかで一番の高級取りだったジョンでさえ、
月給は100リーヴルである。

史実のフェルセン伯は出費帳までつけていて、本書には
1789年の一部が掲載されていました。
2月ヴェルサイユでの薪 5リーヴル。
ヴェルサイユでの複数の昼食 72リーヴル。etc…
……え。
じゃぁアンドレさんなら、いくら貰ってたのかしら? <脱線



書簡は王妃もフェルセンも、それぞれの思惑で書いていますから
当然ですが、革命期の混乱も彼らの目線で見えてきます。
読み続けていたら、ラ・ファイエットが酷い人間(敵)に見えました
あと国王陛下が優柔不断…決めきれないとか選択の不味さが… あああ

この本でひとつだけ「どうかなぁ?」と思ったところも。
著者の ” シャルル王太子の親はフェルセン ”という解釈。
本書発表当時フランスでは物議を醸したようで……当然でしょうね。
この部分、この本には不要だったのではないかしら?
もしくは推論を納得させるにはあと一歩、資料説明が弱かった印象。
独立させて別本で発表すればよかったのに~という感じです。

ともあれ読みごたえは十分過ぎるほどありました。
実際の王妃&フェルセンの姿を知りたい人には完璧ストライクでは
中核になってる図書館なら、必ず入る本ではないかしら。


「銘は空を飛ぶ鳩と共に、印章指輪に刻まれていた。
『Tutto a te mi guida -すべてが我が身を御身に導く- 』
 ~略~
印章はカードに押されていたが、残念なことに暑さで完全に消えてしまった。
それでも私は、これを小箱のなかに大切にとっておいてある。
単身の写しと印章のデッサンと共に」







暗号解読  (2020/6) 


myお年玉物件
シャルル・マルヴィル写真集


  Marville-Paris 
Editions Michele Trinckvel出版

今はもうない、失われたパリの風景。
19世紀に行われたパリ大改造以前の街路を収めた写真集。
CIMG9851

マルヴィルを知ったのは鹿島茂先生の本だったはず…と漁ったら
「パリ時間旅行(筑摩書房)」でしたので、そこから一節。


現在のパリの街並みは、1853年頃から約20年ほどのあいだに、
スクラップ・アンド・ビルドによって、つまり旧来の街並みを
人為的にすべて破壊したうえで、綿密な設計図に基づいて
建築されていったものなのである。
~略~
では、この大改造によって中世から続いた過去のパリは
完全に消滅してしまったのかといえば、必ずしもそうとはいいきれず、
たとえば、カルチェ・ラタンやマレ地区の一部には、破壊を免れた
昔の街並みがそのまま残っている。
~略~
バルザックやユゴーのパリ、つまり失われたパリを知ろうと思ったら、
シャルル・マルヴィルの写真に当たってみるにしくはない。
というのも、マルヴィルがファインダーに収めたパリは、明らかに
大改造以前のパリだからである。

「マルヴィルのパリ」より

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特にバルザックやら19世紀文学ファンというわけでもない私
お目当ては、更に古い時代を偲ばせる痕跡でした。
ロープで吊るされた街灯や、中央が窪んだ石畳の下水溝など
時代が時代ですから車ではなく、ときおり馬車が見えますの…

こちらは1995年版ソフトカバーの洋書のみ。
他にもアメリカで発行されたハードカバー版があるようですが
今まで古書を探しても、高値で手が出ず何年も傍観
それが昨秋頃から下がりはじめたので、ようやく手にできました。

写真点数が膨大なので、もしかしたら書籍化しにくい面は
あったかもしれませんが、多方面に好事家もいるのだから
まるごとじゃなくても日本版、あってもよさそうでしたのにね~。





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